この間 こういう お喋りをしたらお客様に怒られちゃいまして「あ~ これは もっともだな〜」と思いまして図書館ってぇ所へ行って調べようと思いましてじっくりと 書物を紐解いてみましたら 面白いもんですね書物ってぇのは 紐解くとバラバラになっちゃうんですよ。 禅問答という…あれ 永平寺へ行きますと見学通路が こうズ~ッと なってましてそこん所を歩く時に 問答が録音されたやつが流れております。
「汝 日食となる時は 我百万掛けの蝋燭となって辺りを照らす」。 上州 安中の在にこんにゃく屋を営みます六兵衛さん若い時分は 江戸でもって兄ぃとか 親分とか言われたいくらか 小遣いを与えてまた 江戸へ帰すというしたがって 風来坊が 入れ代わり立ち代わりといったような按配で。 田舎は物堅えんだこんにゃく屋に 用無しがゴロチャラしてるなんてぇとなどうも 評判が悪くっていけねえお前も 長く 居てえと思ったら何か 稼業を持ちねえな。 去年 和尚が死んじまってな飯炊きの権助が 一人でもって墓守 してんだよ。
「そうか 八五郎坊主ってぇのはおかしいやな~。 武蔵坊弁慶みてえな」。 「弁小? 弁小ね~ エヘヘヘヘひっくり返しにすると 具合が悪いね」。 こういう奴ですからまともに 修行しようなんて了簡はこれっぱかりも ありませんでその辺の物を売り飛ばしちゃ飯炊きの権助と本堂と庫裡の間へ陣取って 毎日酒盛りといったような按配で…。 「そんなものは いくらでもあるだマグロが赤豆腐だ」。 「サザエが げんこつアワビが 伏せ鐘卵が御所車だ」。 「フ~ン? 卵がどういう訳で 御所車だぃ?」。
♪「モズの く~ちばし三郎兵衛の な〜ぎなた」♪「差せや か~らかさ狸の腹鼓 ポコポッポコ ポッポコな」「頼も~う」。 「愚僧は 越前の国 永平寺沙弥托善と申す諸国行脚 雲水の僧。 ご門前を通行のみぎり 階段石に『葷酒 山門に入るを許さず』とあるは禅家の御寺と心得大僧正 ご在寺ならば一問答 願わしゅう推参仕りました。 問答の坊様 ござらっしゃった」。 「そういう訳にゃいかねえだ玄関脇に でっけえ石があんべあれが 問答 ぶちますちゅう看板みてえなもんだ」。
先立つもんが無きゃしゃあねえからよ~道具屋の吉兵衛 呼んでこいやい賽銭箱だか何だかみんな 売り飛ばそうじゃねえか」なんてんでお寺の庭でもって銅鑼目を 8把 いくら賽銭箱は いくらなんてんでボロ市が始まる。 ええ?賽銭箱? おい 冗談じゃねえ売らないよ~ おい。 それで 向こうへ行って 向こうへまた そういうのが来たらで 俺 何 聞かれても知らん顔 してるからそのうちに お前に聞くだろう『何の返事もありませんが和尚 如何致しましたか?』と。 「ばか野郎坊主が 火掛かりなんぞしなくたっていいんだ」。
こ… あっ そう蒟蒻屋山弘法大師よ」。 「千万 かたじけないしからば ごめん」と案内につれて 沙弥托善正面の襖を左右に 押し開きますと寺は古いが 煌々としたるもの高麗縁の薄畳は雨漏りのために 茶色と変じ狩野法眼元信が描きしかと怪しまるる 格天井の一匹龍は座禅観法 寂寞として控えおるは当山の大和尚とは 真っ赤な偽り何も知らねえこんにゃく屋の親分が…。 旅僧のほうが深読みを致しまして「これは 禅家荒行のうち無言の行中に違いない。