お寿ずが 麻之助の嫁になって。 ちょっと!痛っ!何です?麻之助様 お願いがあります。 うん? 何だい?起きて下さいませ 麻之助様。 三行半を下さいまし。 三行…?三行!?三行半と聞こえたような気がしたのだけれどそら耳じゃ…。 麻之助さんの筆不精は承知しています。 婚礼前に 麻之助さんから文を頂いた事はただの一度も ございませんから。 麻之助さん 今日は またどこぞへ お急ぎで?そうなんだよ。 麻之助さん今朝は また お早いですね。
幸太 この文を 麻之助のところへ持ってったってぇのは 本当かい?持ってきたんだい?だって…。 こんな滑らかな文字をこの男が書けると思いますか?え? 見た事あるでしょう?麻之助の字。 いえ… 子どもの頃麻之助さんが 手習いで大真面目に字のお稽古をしていたのを思い出してしまって。 もう お由有さんったら!おっ母さんも清十郎さんも 麻之助さんも幸太くらいの年から同じ先生のところであれで 結構 お寿ずさんもやきもち焼きですね。 麻之助さんが書いたものではない事は分かったのですから。
もし 何でしたら私が 麻之助さんの代わりを務めさせて頂いても不都合はない訳ですし。 ほらほら ほらほら! ご主人 是非帳面を調べちゃくれないかい?米津尚吾様。 恐らく この文を書いたのは米津尚吾様だ。 調べたいよねぇ!調べとうございます!是非 お目にかかってみたいよねぇその米津尚吾様に。 あ 痛い 痛い 痛い!麻之助さん どうされましたか?あ いやいやいや…。 何をやっている!お前たち!あっ!吉五郎さん。 吉五郎 ちょうどよかった。 その米津尚吾様って お人の事を。
手習い所を開いたあと脚気にかかっちまってねそれで 一旦親元へ戻ったんだそうですが急に 心の臓が悪くなり 倒れそれきりだったって…。 それで 僅か半年ばかりで好いた相手に渡せなかったってぇそういう事かい?あっ 頭取!頭!これ 何て書いてあんだ?「ゆら」? 「ゆか」?バ~カ。 はい お粗末さまって事は手習い所を開いたってのもひょっとすると この娘と 一緒になりたかったからじゃねえのか?手習い所を開き ようやく思いを伝えられると思ったんだろうな。 何~!?麻之助さん。 麻之助さん!麻之助さんってば。
なにを!? 16なんてのはまだ ションベン臭え小娘じゃねえか!俺のおゆうの方が器量よしだぜ!私の方だね!なにを この~!?よさねえか 貞!おゆうは お前の持ち物か!けど 兄貴…!いやいや これはさ どちらの娘が器量よしかなんて事じゃあないだろうよ。 え?要は 尚吾様が ほれたかどうかだ。 尚吾様には 恋しく思う相手が一番の器量よしに見えたに違いないよ。 では やはり 尚吾様はおゆり様と一緒になるために手習い所を開かれたのですか?そのようです。