シリーズ江戸川乱歩短編集Ⅱ 妖しい愛の物語 第2回「黒手組」

戻る
【スポンサーリンク】

この番組のまとめ

今日とても「神出鬼没の怪賊云々」というような三段抜きの大見出しで相もかわらず書き立てています。 記事が簡単でよく分りませんけれどなんでも 娘の富美子が賊に誘拐されその身代金として一万円を奪われたということらしいのです。 脅迫状には いつ 何日の何時にどこそこへしかも きわめて豪胆な連中の仕業に相違ありません。 この牧田というのは身代金手交の当日伯父の護衛役として現場へ同行した男なので参考のために伯父に呼ばれたのでした事の起こりは さよう今日から6日前つまり13日でした。

それは実に一種 不気味な事実でしたところで近頃 お嬢さんの所へ何か 疑わしい手紙のようなものでも参っていないでしょうか?私どもでは娘の所へ参りました手紙類は必ず一度 私が目を通すようにしておりますので怪しいものがあれば じきに分かるはずでございますがさようでございますね近頃は 別段 これといって…。 ところが 明智は何を思ったのかさも一大事という調子でその葉書をしばらく拝借して行きたいというではありませんか。

すなわち 黒手組の方ではお嬢さんも身代金の1万円も返す事。 私の方では 黒手組に関しては一切 口外しない事。 そして将来とも 黒手組逮捕の助力など絶対にせぬ事。 そういう訳ですからどうか お嬢さんにも黒手組については一切お尋ね下さいませんように。 第一は 伯父さんや刑事が賊の足跡を見落としたという解釈。 第二は 賊が何かにぶら下がるかそれとも綱渡りでもするかとにかく 足跡のつかぬ方法で現場へ やってきたという解釈。 第三は 伯父さんか牧田かが賊の足跡をふみ消してしまったという解釈。

それじゃ あの牧田が黒手組の手先を務めていたとでも言うのかい?どうも おかしいね。 伯父さんにしろ警察にしろ果ては君までもすっかり 黒手組恐怖症に取っつかれているんだからね。 なぜ あんなでたらめを言ったのだい?第一 分からないのはもし 牧田の仕業とすればだがね もし君が この葉書の暗号文を解いていたら少なくとも これが暗号文だという事を看破していたらそんなに不思議がらないで済んだろうよ。 この暗号文がなかったら僕は とても牧田を疑う気にはなれなかったに相違ない。