黒澤明生誕110年「羅生門 デジタル完全版」<スタンダードサイズ>

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この番組のまとめ

こんな不思議な話聞いた事もねえ。 いや 物知りで名高い清水寺の光仁上人でも恐らく こんな不思議な話はご存じあるまい。 じゃ お前さんもその不思議な話というのを知ってるのか。 検非違使の庭でだ。 検非違使の。 戦 地震 辻風火事 飢きん疫病。 それから 3日目の今日わしは検非違使庁へ呼び出された。 この私が からめ捕りました男は多襄丸と。 あの洛中洛外に噂の高い盗賊の多襄丸でございます。 一昨昨日の初更ごろでございます。 逢坂を越える辺りで岩清水を飲んだ。 多襄丸が馬から落ちた? ハハハッ。

俺と二十合 斬り結んだものは天下に あの男一人だけだ。 多襄丸一世一代の不覚だ。 多襄丸というやつは洛中に徘徊する盗人の中でも女好きのやつだ。 去年の秋鳥部寺の賓頭盧の後ろの山に物詣でに来たらしい女房が一人女の童と一緒に殺されていたのもこいつの仕業らしい。 多襄丸の話も 女の話も。 フフフッ本当の事が言えねえのが人間さ。 人間ってやつぁ 自分自身にさえ白状しねえ事が たくさんあらぁ。 それが 多襄丸の話とはまるで違うのだ。 違うといえば その女の顔形も多襄丸の言うように気強いところは少しも見えぬ。

人間ていうやつぁ自分に都合の悪い事は忘れちまって都合のいいうそを本当だと思ってやがんだ。 おい お前は この話の一部始終を見ていたらしいな。 この羅生門に住んでいた鬼が人間の恐ろしさに逃げ出したという話さえある このごろだ。 多襄丸は 女の前に両手をついて謝っていた。 洛中洛外に その名を知られたこの多襄丸がこうやって 両手をついて頼む。 お前一人 ぜいたくに暮らせるくらいの金銀は隠してある。 いや そのような汚れた金銀は好まぬと言うのなら汗水垂らして働く。