手前どもは ご覧のとおり見る影もないという船宿渡世でございます。 主も 気味が悪いから土間へ下りて 戸の隙間からそっと 覗いてみますてぇと斯様 多分に やられては困る」。 袴を着けますてぇと 破れ柄剥げ鞘の大小を落とし差し素足に 駒下駄という出で立ち。 実は 今日 身が妹を連れて浅草へ 芝居見物に参ったところ斯様な 大雪と相なったでまぁ 駕籠となると 2丁となって誠に 面倒でいかんよって 深川まで 屋根舟を一艘 仕立ててもらいたいがどうじゃ?」。
じゃあ 私の後ろ 回ってねチョイト 肩の所へ手 載っけておくんない。 チョイト 中 入る時は気を付けてくんなさいよ。 吉原の芸者は 屋根舟に乗る稽古をするぐれえのもんでねいきなり頭のほうから 行くてぇと大事な物 ポキッと やったり 川の中落っことしたりしますから。 よろしゅうございますか? 前をチョイト こう 挟んで頂きましてで 内の所へ 手 かけてね矢立の筆じゃねえけども足のほうから ス~ッ。
エヘヘヘ どういたしまして。 出すもん 出さねえで妙なまね するてぇと舟 ひっくり返しちまうぞチクショウ。 何 言っても 感じねえや チクショウメ」。 『あなた 船頭に酒手は おやりあそばしたか?』『まだ やらないよ』『早く おやりあそばせ』『このぐらいで どうだ?』『それじゃ 少ないからもっと おやりあそばせよ』。 身どもが 花川戸を通りし折大雪のために癪で悩められておる様子。
武士が 一旦大事を明かした上からは口外されては露見のおそれがある。 ただ 体を 細かに動かしてるだけなんだ チクショウ。 盆暮れには カッパから 付け届けが来ようってんだい チクショウ」。 「武士に 二言はない」。 「武士に 二言はねえぐらい当てにならねえ科白はねえや。 「ハッハッ いい按配に飛び上がりやがって チクショウ。