♪～大阪松竹座に来ています。 今日は ここ 大阪松竹座の七月公演から歌舞伎「絵本合法衢立場の太平次」を お送りします。 いわゆる 人間国宝の認定が決まった片岡仁左衛門さん。 「絵本合法衢」ではタイプの違う２人の極悪人を演じ舞台で非道の限りを尽くします。 片岡仁左衛門さんにお話を伺いました。 そうですね大体 二役とか言いますと片一方は善人 片一方は悪人とかあるんですけどもそれの違いの悪人を演じ分けるっていうのはまた楽しいもんでね。 まあ 大体 善人より演じるものは 悪人を演ずる方が楽しいもんですから。
わしがのじゃ わしがのじゃ！ヤア 鷹を引き裂いたわ！引き裂いたわ！まどうて返せ！まどうて返せ！どけ！ どかぬか！あの餓鬼めが持ったるは正しく 小霞！まどうて返せ！ まどうて返せ！あっ！ まどうて返せ！ウワ～！あっ！これは 御前様には土民の小倅 このごとく…。 しかも 当地は 瀬左衛門の支配地。 瀬左衛門の支配地の餓鬼ゆえ真っ二つ。 瀬左衛門か。 拙者 見覚えはござらねど帯につけたる迷子札…こりゃこれ某が支配所の百姓佐五右衛門が倅。 こりゃ 瀬左衛門 この所は其方の支配地ではないか。 こりゃ瀬左衛門には…。
其方が 今の了簡は即ち 大学之助様一生の お身の納まり。 こりゃ 瀬左衛門身どもは 未だ菅家の正筆軍蔵 手水。 菅家の正筆 奪い去る時は多賀家の滅亡 まのあたり。 スリャ 兄者人には。 兄者人 兄者人…。 そりゃ 太平次 おぬしの顔が大学之助様に瓜二つ。 道理こそ それに与兵衛めは御家の重宝と知った故どうして どうして。 太平次さん その香炉とやらわっちが 仕事をしてやろうか。 ねぇ首尾よく行ったら 太平次さんたまにゃぁ この麦飯も喰ってみねえな。 なんぼ乞食だからといってね身仕舞道具ぐらい持っているさ。
まさか 与兵衛が そのような。 こりゃ たしかに与兵衛が手跡。 高台寺前下り坂八坂と落ちて駆け上がり二条新地や御霊裏おはもじながら 虱のつじ泣かぬつとめの蛍茶屋。 イェイェ 与兵衛さんにはわたしという。 及ぼうが及ぶめえがなこうした慥かな証拠がありゃァ何所へ出ても 与兵衛が女房。 じゃが いくらいうても相手の与兵衛さんが留守なればわっちが帰るとでも思っていやがる…。
与兵衛さま お戻りなされませ。 誰かと思ったら 太平次殿か。 あ～ もしもしもしもし 与兵衛様ちょっと お待ちなされませ。 何も この与兵衛が方には。 もし 与兵衛さまあっしの顔が似ましたかね。 さてこそ 敵は あの大学とご存知故に睨まれながらも 心の嬉しさ今は 道具屋 田代与兵衛。 コレ 太平次殿必ず 異見して下さるな。 身持放埒 惰弱の与兵衛。 太平次殿不孝なゆえに勘当する二人明日が日こなたの所へ行こうともかならず 構うて下さるな。 さあ 与兵衛さま おひとつ…。 待たっしゃれ 太平次殿。
これ 太平次どの この財布…。 太平… 太平次…。 折角 与兵衛に飲まそうと思ったこの毒酒惜しい事をしてしまった。 太平次さん。 あのお袋の固意地ほいさ 合点だよ。 合点 合点 大合点。 お亀 与兵衛が勘当されたその日の内にくたばった あのお袋殺し手は与兵衛にならあな。 太平次さん 今は こうして道行気分で連れ立って歩いてくれるもののしたが あっちを踏み付けにしやァがるとお袋を絞めた一埒をお恐れながら持ち出すよ。 暗闇に 桜は 露に 会うと云う 雪は 仲立ちを 散らすのか南無 三宝大明神 家の内 エイ。
拙者は 飛脚の与五七という男から教わって参ったものじゃ。 モシモシ お二人様。 人里はなれた倉狩峠で追い剥ぎに追いかけられ逃げる所をお道さんに出会えたも地獄で仏ほんに 助かりましたわいな。 私どもも 夫の在所この大和に移り住みましてな今では 太平次も 立場の主。 与兵衛様お荷物は こちらへお預かり…。 あっ そんなら 与兵衛様ちょっと横におなりなされませ。 この頃中から ご家来衆がこの辺りを右往左往。 今も今とて お前様の支度金の五十両を持ったお侍が奥で寝ておりますのさ。
こりゃ 支度金の五十両。 その身の代の五十両どうぞ あなたの御役に立てて下さりませ。 合点だ！よろしゅうございまするか？親殺しの与兵衛 見つけた。 最前の五十両はあっしが後から持って参りますればとりあえず 峠の古宮でお待ちなされませ。 モシ 与兵衛様。 与兵衛様 御気を付けなされ。 とにもかくにも この次第を与兵衛様にお知らせ申してそうじゃ そうじゃ。 ああ～！さては与兵衛を逃しやがったか。 こなさんは現在主筋の与兵衛様を殺して宝の香炉を手に入れようとは情けない。
あ～！うわあ～！すりゃここの亭主が 与兵衛様を殺し御所持の香炉を 大学方へ遣わそうと言ったのじゃな。 ちっとも早く与兵衛様のお跡を尋ね敵討ちのお力とならにゃならぬ。 大学一味のおのれらを助けおいては与兵衛様のおためにゃなるまい。 騙し込んだ与兵衛は助かりいらざる所へ飛び込んで思いがけねえ この死に様。 ああ～ ああ〜！しかし 逃げても あの与兵衛。 モシ 与兵衛さん。 与兵衛さんこれ 死んでも未来は女房じゃとどうぞ言うて下さりませ。