昔はってえと一般庶民のあらかたはほとんどが借家住まいだったそうですね。 家主 大家 店子のつきあいというものがこれが 大変に色濃かったそうですね。 親子以上の面倒を見たそうで。 そのかわり また家主 大家なんというものが大変に権限があって口うるさい事 この上ないという。 「店賃 ひっくり返しゃ賃店じゃねえかな」。 『では 店賃はいくらでございます?』。 初めて ここで店賃てえ事になるんだ。 貸すとも 貸さねえとも言わねえうちから店賃聞いて どうしようてんだ。
「わしは 何だ 豆腐屋だがね」。 「豆腐屋。 いや この町内にな 豆腐屋がなくて 不自由をしてたよ。 少々 お尋ね致しますがお家主様の田中様のお宅はこちらでございましょうか?ごめんくださいまし」。 手前は表を通行の者でございますが2間半間口 まことに結構な貸家がございまして手前のような者にお貸し下さいましょうやまったご前約がございましょうやこの段をお伺いに参りましたような訳で」。 とんちんかんな… その座布団を持ってきな 座布団を。
「手前に妻に せがれ以上3名でございますから」。 え? 二十歳?おお おおこれはもう 立派な大人だ。 「これが 何でございますよ性に合いましたと見えてメキメキと腕を上げまして近頃は もうよいものになりますと 手前よりもせがれへという注文が多くなりましてございますから」。 で 何か?まだ 独り身か?二十歳といっちゃあ早いからあと何年かしたら 知り合いにこういう娘さんがいるからゆくゆくはあれと一緒にさせようという腹づもりぐらいはあるんだね?何にもないのかい?誰か 知り合いに頼んであるとか。
「いや そらあね 親の目から見りゃそうだがね若い者同士になってごらんよとても そういう具合にいくもんじゃありませんよ。 『十九たちまち二十歳宵闇』といってねこれは 月夜の晩に くっつくね」。 朝夕の挨拶 時候の挨拶お互いに好いたらしいという心持ちになってくる。 せがれが留守番をしながら一生懸命仕事をしているてえとなお花が 何か小脇に抱えて店の前を 行ったり来たりし始めるんだよ。 「いや やっちゃいなと申されましても手前どもでは跡取りでございますよ。 「手前どもでも跡取りでございますから」。