♪~いわゆる 昔の寒さと最近の寒さとは家屋の構造にしたって 台所は全部 北向きになっておりましてそこに 張り板がありまして開けるとぬかみその樽がありまして調味入れが置いてあって脇の ねずみ入らずの中で夕食の白身の魚のおつゆが一晩でもって煮こごりになった。 昔は もう 火元の方からは柳行李を担いだり荷物を抱えて命からがら逃げてくるそれに逆らって 火元の方に行こうとする やじ馬の方が勢いがよかったりしまして「火事だ 火事だ 火事だ!邪魔だ 邪魔だ!」っててめえが邪魔なのが分かんない。
従いまして 本当に回ってるかどうかを見て歩く見回りの役人がついて回ったそのころのお話でございます。 「おう 黒川の旦那。 今頃 奉公人はあったかい布団の中でもって高いびきですよ。 奉公人がいるから 私どもの商売が成り立つんです。 夜回りが世界の平和?」。 黒川の旦那拍子木の音がおかしゅうございますね」。 「やっておりますがどうも寒さで拍子木が 袂から出たがりませんで。 提灯持ちは 前いらっしゃい 前へ。 辰つぁん 辰つぁん金棒 どうなってんだよ? ただズルズル引きずっちゃいけませんよ。
『火の用心 火の回り』心得ております。 「火の用心~ 火の回り〜」。 はっ 火の用心~。 「火の用心 火の用心火の用心 火の用心」。 「何が『への用心』だ!辰つぁん どうだい?」。 あっしはね 旦那らと違いまして若い時分に 道楽が高じまして勘当なりまして吉原 中で夜回りをやった事があるんでござんすよ。 刺子の長袢纏に算盤玉の三尺 締める。 豆絞りの手拭い 首にかける左手に提灯 右手に金棒。 火の用心~さっしゃりやしょう!」。 ええ? それが吉原調かい?結構だね」。
惣助さん炭箱持ってきなさい 炭箱。 番小屋ですよ あなた。 番小屋でもって酒などを飲んでごらんなさい。 惣助さん その土瓶の中身 空けて。 「いいえ これはね 黒川の旦那のおっしゃるとおり 体を温めるためでございますからこのぐらいの権限は月番にありますから。 「おい どうした? 惣助さん」。 あれはね 体が あったまるはいいですけどもねここは番小屋ですよ。 それでは 頂戴致します」。 「はあ~ 惣助さんそろそろ 何か 鍋の方がいい においがしてきましたけどえっ? これももう よろしいですか。
「頂戴致します」。 「あっ 惣助さん私も頂戴致します。 「まあ ネギは 深谷 岩槻だいろいろありますけど甘さが身上でございますわね」。 冷やで頂いて おなかん中でお燗してますから アハハハ」。 『明けの鐘 ゴンと鳴る頃三日月形の櫛が落ちてる四畳半』ってね。 アハハハ」。 「番の者はおらぬか?見回りの役人である!」。 土瓶が袂に入る訳ないでしょ。 土瓶は後ろへ回して 後ろへ。 ご苦労さま ご苦労さまご苦労さまでございます」。 「ご苦労である。 何やら 土瓶のようなものを片づけたようであるが」。