ですから まぁ こういう所へ大店の若旦那という金も 暇もあるような者がはまっちまうってぇところがどうにもなりません。 端は そう 言っておりましたようなもんの「金の切れ目が縁の切れ目」というやつ若旦那の金が無くなったなと思うてぇともう 手のひらを返したようになりまして花魁はもう 出て参りません。 「まあ~ 若旦那 花魁が気の毒じゃありませんかね。 しかたがないから 贔屓にした芸人の家の二階とか仕出し屋の二階 置き屋の二階と居候の廻しを取っているうちに若旦那 行き所が無くなってしまいました。
夏のことで夕立が降りだすてぇと往来の者は 慌てて軒下へ駆け込みますけれども若旦那一人が 「あっこのほうが かえってきれいになって いいや」。 私は 若旦那が勘当になったって聞いたんですぐに 二階を片して 掃除をして待っていたんでございます。 これから 若旦那は大松屋という船宿の二階に居候をする事になりましたがまた この居候というのも難しいものだそうでかえって 少し粗末に扱われるぐらいが居やすいと申します。
これから若い衆連中を集めますてぇと若旦那の船頭の披露目でございます。 若旦那 一生懸命舟の稽古を致しましてまぁ 空の猪牙舟ならなんとか こなせるというぐらいにはなって参りました。
「フフフ な~にご信心といってもなその目当ては 観音様の裏手にあるという訳だ ハハハ。 え~ ときに 天満屋さんどういう事に しましょうかな?え~ このまんま大桟橋へ着けてえ~ まぁ観音様のお詣りをして大枡あたりへ上がって汗を拭きの 一杯 やってそれから 吉原へくり込むというような事でよろしゅうございますかな?いや いや もう天満屋さんの よろしいように。 いえ いえ 天満屋さんがよければ それで手前はいいのでございます。 『一人船頭 一人芸者』あ~ これはご法度として ある。
ええ?いくらお前が男嫌いといっても相手は 名うての色男の船頭の徳兵衛だ。 私が 男嫌いという事は旦那が 一番にご存じじゃありませんか」。 徳兵衛は 蓑笠をつけますてぇと艫の所でもってうずくまって雨を避けております。 『一人船頭 一人芸者』。
世間の評判で若旦那は 柳橋という所で唄や三味線を教わっておりましたがそのうちに お父っつぁんが亡くなってしまいまして身のふり方をどうしようという時に稽古屋のお師匠さんから『柳橋の芸者の下地っ子にならないか』と言われて一も二もなくとびつきまして。