♪~戸隠様へお参りをしたんだそうですな。 もっとも戸隠様まで参りませんでも橋の上から 戸隠様の方角へこう 手を合わせまして自分の痛い歯 上下何番目とかあるいは 自分の生まれ月日ですなこれを この 紙に書きまして果物の 有りの実と申します梨ですな。 神田 お玉ヶ池に 次郎兵衛さんという この人は 小間物屋さん。 それでも次郎兵衛さん 「そうじゃない。 着くってぇと もう踊り屋台を見物したり佃囃子に こう聞き入ったりあるいは 住吉様へお参りをしたりなんてんですっかり祭りに酔ってしまいます。
「あの 間違ったら恐れ入りますが3年前に吾妻橋から身を投げようという若い女に 5両の金を恵んでいや あたしゃね 『暮れ六つで帰るしまい船で帰る』と家内に そう言って出てきたんですよ。 ありゃ 吾妻橋でしたかね?暮れ方 おお! 今時分ですよ。 旦那 すぐ近所でございます。 あの時 私 奉公先のご主人のお金を無くしまして言い訳なさに死のうてぇのを旦那に助けて頂きまして。 まあ あん時 私 もう 娘時分でうれしいやら きまりが悪いやらで旦那のお名前も おところも聞くのを忘れまして。
気を付けてね!旦那 お聞きになりましたか?あの しまい船が沈んだそうです!」。 旦那どうぞ 一杯」。 一緒になって おめえ「よく 話 してるだろ?あの 吾妻橋の旦那なんだよ」。 「吾妻橋の… 旦那って…えっ! おめえの命の親の?おいおい!そうか いや こんな時にこんな汚え身装で会わなくちゃいけねえのかよ!あ~ しょうがねえな。 あっ 旦那 どうも!お初にお目にかかります。 3年前に これが旦那に助けて頂いたってんで。 旦那 命の親だ。 「え? じゃ 旦那 何ですか?旦那 あの船に乗ってて… うん。
旦那何言ってんですよ! この野郎が助けたんじゃねえんですよ!神様が助けたんだ。 じゃ 頂きましょうか」なんて次郎兵衛さん お酒飲んですっかりいい心持ちになっちまう。 次郎兵衛さんの方はこれで済んだんですが済まないのが うちの方ですな。 早く帰ってこないかとこう首を長くして待っておりますと船場の方から5~6人バタバタ バタバタ バタバタ バタバタッ!駆け出してくる。 ゆんべ 湯で会ったんだよ次郎兵衛さんに。 次郎兵衛さんが死んじゃったんだよ」。 「次郎兵衛さんが死んじゃったの」。
さあ わ~ってんで大勢で次郎兵衛さんのうち行くってぇと江戸っ子は気が早い。 半分は ここへ残って陰通夜でねあとの半分で 次郎兵衛さんの死骸を… いや あの…まあ あの 次郎兵衛さんを引き取りに行かなくちゃいけねえんでございますがね今 そう言ったんですよ。
「帯は紺献上で五分詰まり」。 「五分詰まりの紺献上の帯。 ええ?いや あのねえ 今 おかみさんが言った 何とかってその 着物を着て 帯締めてねえ何か挟んで柾の13本通った下駄履いて次郎兵衛さんがまあ こう… なっててくれりゃいいんですけどもねそうは いかねえってんですよ。 水ん中なんだから 次郎兵衛さんも着物なんざ はだけてもう 帯がほどけて さんばら髪でもう こんな…」。 一目見てこれが次郎兵衛さんだって何かありませんかね?うん… 左の二の腕?おう 左の二の腕。