「若旦那 若旦那。 若… ああ ああ ああ何ですよ! 若旦那 ええ?何だか分かんないけどもムンムン ムンムンしちゃって。 その まあ お医者様が言うには『若旦那にいくら薬をのませても調合しても 駄目だ 治らない』ってんです。 「まあ それでね 旦那様の言うには『親には話せない事もあの 若旦那ドブだって そうなんですよ。 若旦那一人で決めてたらしょうがないでしょうよ。
みかんが食べたいいらぬ心配をかけさせるだろ?」。 嫌になっちゃうな 若旦那。 大丈夫 大丈夫 大丈夫ですから。 何しろ 若旦那ねこの空気 空気を入れ替えましょう入れ替えましょう。 そしたら 『そんな事を言ったらまた お父っつぁんにいらない心配をかけさせる』って」。 また 若旦那もね『お前が みかんを持ってきてくんなかったら私は死んじゃうよ』なんて事 言ってましてね」。 「え? フフッ 何を言って… フフフ。 だから 八百屋でも水菓子屋へでも行って 買ってきますよ」。
「みかんは うちはちょっと 無理なんです」。 「いや 無理でも 無理でも何でも 何でも みかん下さい」。 うちは駄目なんですよ無理なんですよ。 『みかん下さい みかん下さい』ったってねえ この真夏にあなた そんな事言ったって無理でしょうよ ええ。 どこ行ってんの? 八百屋?ああ 八百屋なんて行ったって無理だね。 あそこは問屋だ。 あそこは問屋 問屋ですからそこはか… 必ず必ず ありますよね。 こ… こちら これ 何ですか?と… 問屋さんですやな?」。 え?万惣というね みかん問屋がある。
ああ こら 駄目だねえ。 これも駄目か。 ちょ… 頂戴致します。 え~ それでは千両 頂戴を致します」。 「私は 『このみかんは病気見舞いに差し上げる』と買わしてもらう』という事でもって私は この千両という値をつけました。 もし 夏場に みかん ご入り用という お客様が来た時に『手前ども みかんはございません』とは そらあ言えません。
おい おい 蔵から千両箱 持ってらっしゃい!さあ 早く 千両 持ってってそいでもってみかんを買ってくるんだ。 千両箱を持ってってみかん一つ 買ってまいりまして。 「若旦那 若旦那。 私の方こそねこの 若旦那の部屋へねみかんを山のごとくなんて言いましてね 生意気な口をきいて相すいませんでございます。 でもね 若旦那 喜んで下さいな。 え? 若旦那 いいですか?このみかん 一つ… 一つでもって千両ですよ」。 あ 若旦那 その あの皮むくのも 丁寧に ええ。