ですから こういうところにお金と暇のある大店の若旦那なんてぇものがはまっちまいますてぇとこら どうにもしょうがないよう。 ようやっと若旦那の居所が知れました」。 私は 若旦那の気性をよく知っておりますんで 手前が迎えに行こうかと思いますが」。 方々 捜さしたところがそれ 吉原に 何海老とかいう見世があるかい?」。 まあ 近頃じゃ 角海老でぶん流しをしようってんだい。 もっとも 若旦那なんて無理はねえやね。
これから 刺子拵えか何かでもって土手を トントン トントン行きますてぇと 向こうからやって参りましたのがいわゆる 野幇間という。 野暮用だよ」。 大門向かう土手の上で 『野暮用』は恐れ入りやした ええ。 じゃ 野暮用お供つかまつります」。 「さあ 若旦那。 居丈高になって意見をしてるところへ最前の幇間が「どうも 鳶頭。 明舟町の三道楽人が勢ぞろいでございますな ええ。 何だ まあ迎えに行くやつ 迎えに行くやつみんな木乃伊取りが木乃伊になっちまう。
これから2階に上がるてぇと仕着文庫と申します自分の身の回りのものを入れておく箱がございましてこの中から田舎から持ってまいりました手織木綿という 昆布の皮のようにゴツゴツした生地で こさえました丈の短い羽織を着まして熊の皮の煙草入れを前に差しましておととし買ったという雪駄をうやうやしく掲げて2階から下りてまいります。 ああだに 道楽こいてる若旦那の事をそ~んなに心配ぶちなさるで。 「んな事は分からねえけんどもああ おらがとこの若旦那と佐兵衛さんという番頭さんと金太郎という鳶頭の3人で来ている訳だ ああ。
若旦那 分かりました。 若旦那のような粋な方のところへよく ああいう武骨な者を飼っておきますね」。 「いや これは 忠義者の清蔵さん。 若旦那 親てぇものはありがてえもんだよ。 こうだに 道楽こいてる若旦那の事を夜の目も寝ねえで心配ぶっていなさるで ね。 若旦那 このとおり」。 若旦那 このとおり。 「そいじゃ 何けえ?これほど お願えしても若旦那帰っておくんなさらねえかい」。 若旦那 いけません。 「いや 若旦那に手ぇつかしちゃ…。
このお茶屋だって縁起商売 水商売。 これからみんなで もう一杯ずつ やって誰かが冗談を言ってわ~っとなったところで手を締めて帰るとなりゃ景気がついたってんでこのうちも喜ぶんだが。 「ん… おらあ そうだな事はよく分からねえけんども うん若旦那せえ 帰って下さればそれでいいだい」。 じゃ まあ若旦那 お帰りなさるめでてえ酒だで一杯だけ よばれるで ああ。 もう一杯だけ?清蔵に酌でも してやんな」。 「ああ これで若旦那…。 「若旦那 きれいな あまっこだね。