昔はてぇと ご案内のとおり己の2本の足が頼りでございますから不自由な事も 随分と多かったようでございますねえ。 流れさえ見りゃガブガブ ガブガブ やってみるけどもどうも あの 水てぇのはいけねえな。 腹ん中でガバガバ~ンってんで おめえ波立ってんだぜ おう。 「よせよ コンチキショー。 「へえ あっしら2人旅の者でござんすがね行き暮れて難渋をしておりましてね本堂の隅なり 土間の隅なりどこでもよろしいんでございます。
お前方は 大層 空腹の様子だな」。 「ヘヘヘもうね 空腹だなんて そんななまやさしいもんじゃねえんですよ。 赤土食って 藁食やあ何の事はねえ。 「いや お前方に食べられないのも無理もない話だ。 「うん 出家というものは樹下石上を宿とするを常。 随分と厄介になりましてねありがとうございます。 厄介ついでに旅の者を泊めおくとな後々 うるさいでな。 お前方から話も聞いた。 どうだい いっその事な髪をおろして御仏の弟子となる気はないか?さすれば いっか何日ここにいても構わんぞ」。 「つまり 坊主になるのだな」。
今ねえ 相談しましてね何事も融通でござんすから頭文字をとって梅坊と初坊にしなさい」。 「梅坊に初坊! ハハハハハハハ。 「南~無阿弥〜陀仏〜」。 「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏。 留守中乱暴狼藉を働かんようにな」。 留守中にな村の者から葬式を持ち込まれるとお前方の手には負えないからこの山を一つ越えると願行寺という寺がある。 ご苦労さん!ハハハハハ。
てめえは円左衛門と申しましてな当寺の檀家でごぜえます万屋金兵衛の「ああ そうか。 おう! 梅坊 支度だ 支度」。 早えとこ支度しねえな 支度を」。 こっちは おめえ融通坊主だよ。 早えとこ 支度しねえな。 いや~ お上人様が喜んで行って下さるそうだ。
南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏」。 「お上人様 それ仏壇でねえでごぜえますよ。 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏…」。 え~ お上人様にお願えがごぜえましてなあ」。 万屋金兵衛の身内の者でごぜえましてな隣村から来まして。 金兵衛の戒名をこう 紙にな 字の書いてあるもん何か持ってねえか?何だって構やしねえんだけどもな」。 これが 金兵衛の戒名だ。 え~『官許 伊勢朝熊 霊法万金丹』。 どっから見ても これ薬の袋でねえか? 『官許 伊勢朝熊霊法万金丹』って。