私は日本橋の生まれなんですけど戦災で焼けてしまいまして師匠のうちは…三軒長屋が まずございまして一番端っこが師匠のうち隣が タクシーの運転手さんのおうちでございましてそのころの3,000万円ぐらい貯金があったという事でございます。 で 戻ると 師匠が うちの中で長火鉢の前で怖い顔してますからなるべく外にいたいんでず~っと掃除してんですけどそうだ と思って気が付いてほかのおうちの前も こうきれいに掃除してたんですね。 文治師匠のうちの前もお掃除をしておりました。
ほとんど ベッドで寝てるか部屋でテレビ見てるかそんな状態でございます。 院長さんが回ってまいりまして「正蔵さん どうですか?ご加減 いかがですか?こう あったかいと あれでしょ腰も痛くないし 膝も加減がよろしいんじゃないですか?」。 一番呼びたい方お呼び致しますから看護婦に そう言って下さい。 実話ってぇのは小ばなしを作るよりも大変 面白いものでございますね。 「誰だよ 表の方で『カアカア カアカア』うるさいねえ。 急に いなくなっちまったから随分捜してたんだよ。
魚屋さん行ってね尾頭付き買っといで」。 「何だ 尾頭付きってぇのは?」。 「え~ああ お… 尾頭付き あるか?」。 価格破壊じゃねえのかな。 6円のものを5円にしてくれるってのはよその魚屋は やってないよ。 「魚屋の前で商いしちゃいけないよ」。 「早かったね どうだったい?尾頭付き あったかい?」。 「尾頭付きはね高くて買えねえんだい。 50銭の尾頭付きなんか ねえんだい。 ほかに尾頭付きっていうと魚屋のおやじだけでしょ。 明智光秀みてえだなあ」。
ばか旦那じゃないんだよ 若旦那」。 「おた… お宅の若旦那様に…え~ お宅の若旦那様に… え〜およ およ… およ およ およ…」。 つなぎってぇのはね長屋の連中が おあしを出し合ってお祝いをするのをつなぎなの。 「甚兵衛さんじゃないか。 え~ 本日はよいお天気でございますと」。 「おお まあ今日は いいお天気で結構だな」。 そのほかは はっきり言わないと1円下さるか下さらないかの瀬戸際だから甚兵衛さんや これ お前さんの一存で持ってきなすったか?それとも 訳知りのお光っつぁん承知の上かい?」。
「おう そこ行く甚兵衛さんじゃねえのか?どうしたい?」。 おう いいかい? 甚兵衛さんそらねえ 5円になるよ 5円に」。 鮑は紀州の鳥羽浦で海女がとるんだ。 海女がとるったって色の白いのは絵空事。 本物の海女は 潮風に吹かれてお色は真っ黒け。 岩から剥がして海女が自分の肌身につけてス~ッと上がってくるんだい。 仲のいい夫婦がな むしろを敷いて薄刃で引いた その鮑の上で一晩寝ねえと立派な のしにならねえんだい。 さっき聞いた時 俺 海女になりてえなと思ったんだい。 おめえも海女になりてえだろ。