「だからね 私は 今一度でいいから ゆっくり会って話がしてみたいホファッ…」。 まさか堅物のお前がだよ恋煩いをするなんて不思議なぐらいだよ。 あのな こういう方はな太夫といってお大名道具ってぐらいなもんだ。 幾代太夫ったら お前女の私だって知っているぐらい大変な評判じゃないかよ。 幾代太夫だなんて言わないでね「清蔵の病のもとが分かったてんだよ」。 あの堅物が 恋煩いなんざするわきゃないだろ?食い煩いだよ。 「誰だと思うよ?幾代太夫だってさ」。 「幾代太夫だよ」。
ヘッヘッヘッヘ… お前幾代太夫に恋煩いだってな」。 お大名道具といってねお大名であるとか大きな店のあるじでなきゃ会っちゃくんない。 「本当に!?」。 「本当だよ。 向こう1年 一生懸命 働くんだ。 一生懸命 働いてどうだってえ金をこしらえてごらん。 その金で「本当に!?」。 「ああ 本当だい」。
幾代太夫でなきゃ嫌だってえ気持ちが何で分かってもらえないんですよ!」。 病人がいたら先生には診せない。 帰りにな 髪床 行ってちゃんと 刷毛先直してくるんだよ。 これがな お前が 1年一生懸命 働いて ためた13両と2分。 暇出したみてえじゃねえかコンチクショー。 「幾代太夫だがなんとかならんか?」。 明くる日の朝 糸柾の長火鉢ちりめんの三つ重ねの座布団の上にちょこなんと座った清蔵のもとに朝の衣装 朝の化粧に直した「主 一服しなんし」。