まあ 今 富士登山なんてえのは大層 はやっているようでございますね。 登山道が渋滞をするほど人気だという。 江戸時分も 山に登るという事はあったんでございますけれども金剛づえを持って六根清浄 六根清浄と言いながらどうだい? 今年は こっちに残ってもらうという訳にはいかないかい?」。 「いや それがな どうも男連中が出かけちまうてえと あとは女 子どもばっかりで どうも不用心で いけないてんだよ。
熊の野郎だい!」。 そこへ 熊の野郎がへべれけになって入ってきやがってね『今 俺も そこに入る』って。 あんまり しゃくに障ったから『この野郎! 何だって人の鼻っ先でもって 屁なんざたれやがんだ!』ったら野郎の言いぐさがいいや。 そのかわり あの野郎の頭坊主に丸めちまえよ!」。 明日は江戸に入るんだから 勘弁…」。 やってるてえと 下の方でもってまた 「先達つぁん 先達つぁん」という声が聞こえる。 「先達つぁん!先達つぁんがいないと始まらないじゃありませんか!さあさあまあまあ ここへ ここへ」。
いつも これだけ 素直だったら熊さんの頭を丸坊主にするてえと下行って どんちゃんどんちゃん大変な騒ぎ。 湯殿でもって 大立ち回り」。 えっ?それから 朝飯をかき込むてえと手拭いでもって頭をくるみまして三枚の駕籠てえからじゃあな 今度 お山に行った連中のかみさんそっくり ここに集めてくれ。 うちの彦兵衛がついてるから間違いはありゃしないと思うけどもさ まあ 行くだけ行ってみようじゃないか。
船頭をはじめとしてお仲間の死骸が一人として揚がらない中であなた一人が助かるというのはなんという運の強い人だてえのを聞いた時にね… ねっ。 だから おめえたちの亭主はたとえ 千年 万年待ったところで帰ってきやしねえんだよ~!」。 でも 人間生き死にの事でもってうそや冗談はつけるもんじゃありませんよ。 あんな優しい亭主は 二度と持つ事はできやしないんだよ。 ああいう亭主は もう二度と持つ事はできないから私は もう死んじまう…」。
いや~ 感心だな。 かみさん連中 そっくり坊主にしちまいました。 どこで借りてきたか麻の衣を着ますてえと真ん中に座りましてかみさん連中を周りに座らせるてえと長い数珠を引っ張り出してきまして念仏を唱えながらこれを繰っていくという百万遍というものを始めました。 茶店で待ってる時早駕籠 行ったろ? あれだよ。 みんな 坊主にされちゃった!みんな~ 大変だぞ〜!」。 さあ 一生懸命 念仏上げてナムアミダブ ナムアミ…」。