まず 小室山で毒消しの護符を頂きまして法論石まで下りてまいりました。 いつしか また 白いものがチラチラ チラチラ 落ちてまいりました。 「妙法蓮華経 南無妙法蓮華経。 あの~ 恐れ入りますが今晩一晩 土間の隅で結構ですが泊めて頂くわけにはまいりませんでしょうか」。 「雪道を歩いておいでになって足は汚れちゃいないんでしょ?大川屋 新助と申します。 江戸の者は 囲炉裏に慣れませんからな。
本当に ありがたい次第でございますがおかみさんはお言葉の様子からして江戸のお方じゃございませんか?」。 会わしてもらいたい』と言うと若い衆がね『ほかの花魁じゃいけませんか?』って言われたんで 『冗談言っちゃいけない。 花魁が心中なすったなんていい加減なことをねえ…」。 「いえね 相手というのがね本町の生薬屋のしくじりでしてね手に手を取って この甲州の山ん中逃げてきたんですけどもねえまあ あのころのことを思うとぞっとしますわ」。
卵をポンポンと2つ割り込んでで すぐに囲炉裏へかける。 たき火ですから 出来上がって…。 今 花魁のお手ずから卵酒が頂戴できるというのはこれは まあお祖師様のおかげでございますな。 妙法蓮華経 南無妙法蓮華経 妙法蓮華経。 妙法蓮華経 南無妙法蓮華経」。 その命の恩人が困ることを亭主に飲ませようと思っておりました酒を泊まり客に振る舞った。 入れ違いに帰ってまいりましたのが亭主の伝三郎。 八千草で編んだ山岡頭巾をかぶりましてタヌキの皮の袖なしというのを着まして鉄かんじきを履いて「よく降りやがんなあ。
あの ほら 治右衛門の所 寄ったらな「そうじゃない誰がお前に毒を盛るもんか!そうじゃないんだよ。 百両あったら 上方行かれるじゃあないか。 途端に 懐から 紙入れが落ちまして中を見ると小室山で頂いてまいりました毒消しの護符があった。 これで 逃げちまえばいいんですがさあ そうなるってえと人間 欲が出ますんで「ああ あの振り分けの荷物 道中差しをどうしても あの荷物を」ってんで座敷に はい上がった。 鉄砲と聞いたんで 新助が驚いたのなんの。