これは一年の大つもごり 大晦日。 そのころの川柳に 「大晦日 箱提灯は怖くなし」なんてのがありましてね箱提灯と申しますと その時分お侍の持って歩きました提灯でねこれぁ ふだん怖いってんでねもう よけて通ってるんですがこの日ばかりは こんなものよりも掛け取りの持って歩く弓張提灯の方が怖かったってえましてね。 「元日や 今年もあるぞ 大晦日」なんてんでね「どこを のそのそほっつき歩いてるんだよ この人は」。 「『何しに』って お前今日 大晦日じゃねえか。
今日は大晦日。 親方ね 今日は ふだんの晦日と晦日が違うんですよ? ね?一年の締めくくりの…!」。 「冗談じゃないよ 親方。 親方ね口のききようってものは あるもんだよ。 ええ?人間 ずうずうしいってえが… 親方なんざずうずうしいのを通り越してるんだよ。 親方 何かい?俺んとこの勘定 踏み倒そうってんだろ。 冗談じゃねえな 本当にな。 今日ってえ今日はね 俺ぁお前 勘定 受け取るまではここへ座って帰らねえからね。 俺ぁ 言いだしたからには お前五分だって 後へ引く男じゃねんだから!そのつもりで…!」。
それから そこんとこに薪雑把があったろう?その太そうなところ 一本 持ってこい。 不思議はないよ。 お前は 勘定受け取るまではそこへ座って帰らねえ。 言いだしたからには 五分だって後へ引く男じゃねえってんだから。 この薪雑把でもって向こうずね かっ払ってやがらぁ。 「そりゃ まあ お前だって忙しいかもしれねえけどな俺んとこだって お前みてえな野郎にいつまでも そんなところへぶっ座られたんじゃ迷惑だよ。 もらわねえって言やぁその薪雑把を振り回そうってんだろ?冗談じゃねえな 本当にな。
ナポレオンが日本酒飲んでたからな。 ニコニコ笑って帰ったら どうだよ。 今やったのは お前 十円札じゃねえか。 「冗談言っちゃいけねえ」。 「来るんだよったって借金取りなんざ来るんだよ」。 「え~ 借金の言い訳〜しましょ。 「これは時間でございましてな 1時間2円ということになっておりまして。 ぐずぐずしてねえで ほら表の伊勢屋へ行って 番頭 談じ込んで2円 なんとかしてこい」。 おかみさんが着物を風呂敷包みに包んで。 え~ ただいまこのお時間でございましてな。