お煮しめの味が 大変に結構だったものでございますから菓子盆に三度 お代わりをいたしまして帰りに 子どもたちが境内で太鼓をたたいて遊んでおりましたんで初陣にでも出かけようというそういう年だ。 その年になって お酒を断って菓子盆に三度 お赤飯をお代わりして子どもたちと太鼓をたたいて遊んでられるようじゃあこらぁ ちょいと困るんだよ。 「何ですか浅草の観音様の裏手の方に大変に はやるお稲荷様があるとかだそうで」。 「観音様の裏? はてね。 観音様の裏といやあせいぜい 吉原ぐら…」。
「大層 遅なりましてまことに申し訳ございません。 はあ~ 坊ちゃんこらぁ大層な御利益だね。 そこへいくと 御利益 薄いね 俺たちは。 「何ですか あなた方途中で中継ぎをなさるという」。 「私 お酒は頂戴できませんので一杯だけは頂戴いたしますがあとは飲むようなふりをしてみんな 盃洗へあけてしまいます」。 そんな時分は 夕方になりますてえと土手は大層 雑踏を極めたそう。 あの柳の木はこのお稲荷様の御神木でございます」。 こうやって あのお稲荷様をお慰めしてるんでございます」。
ええ お稲荷様の? お籠り?フフッ… いけませんよそんな だましたりなんかして。 で ここが お巫女さんのうち?で 私が お巫女頭? 嫌ですよ そんな」。 角海老 大文字 品川楼なんてえところが一流の貸座敷だったそうで幅の広い梯子段を上がりますてえと2階の廊下なんざ ザァ~とまっ どんな堅い人間でもここが お稲荷様じゃないぐらいの見当はつきます。 「ここ あの…お稲荷様じゃあございません」。 え~ お稲荷様でございます」。 私は お稲荷様のお籠り屋だというから上がったんじゃございませんか。
若旦那 坊ちゃんお帰んなさい お帰んなさい。 こうなったら源兵衛と太助いこじでございやすからね若旦那が つきあってくれるというまではこっちは動かねえんだ。 ええ?若旦那が一緒んなって遊んでくれるまではひとつきだろうが ふたつきだろうがてこだって 動くんじゃねえんすよ」。 だがね 若旦那このうちだって縁起商売 水商売上がってすぐ帰るっていうと嫌な顔するんだよ。 若旦那そのぐらいのこと 分かんでしょう?これから 座敷 上がって一杯やりますからそれが終わったら大門まで お送りしましょう。