この電話だって 借金して買ったのに借金取りの電話しか かかってこないじゃないか。 あのね かの 明智 小五郎先生だって最初は 4畳半の下宿から 実績を積み上げていったの。 「タイリクノシゴト シュウリョウセリ」「シモノセキヲヘテ キキョウス」ハァ… 無事に着いたのね。 お宅と 一緒に しないでいただけませんか?何やと?待て 待て 待て! お嬢に 何してくれとるんや!金田一さん こちらへ。 ここ ひと月ほど 私を含めた店の者たちがこの薬の調合技術は 先祖代々 受け継がれてまして門外不出の秘伝で…。
で 今は 三代目が?創業者の遺言で 直系の跡取りだけが薬の調合技術を 受け継ぐことになっています。 実は 2年前兄の喜一郎が とんでもない事件を起こしまして。 事件?確執は 行き着くところにまで行き着いて 兄の喜一郎は 向かいの家に殴り込んだんです。 どういうことや?創業者の遺言で 直系の跡取りが途絶えたら店 閉めなあかんのです。 少なくとも 事件が起きたとき本家の音吉さんと 初恵さんは 僕と一緒にいました。 1階に下りたときに使用人の方々とも 擦れ違いましたし本家の方々が 犯行に関わるのは 不可能です。
えっ!? こんなに!?昨夜は 金田一さんのおかげで 本当に助かりましたから。 つまり それはあなたと 向かいの長彦さんとの間に何か 特別な感情が 芽生えた… とか?親にも 兄にも内緒で私は 長彦さんと 交際をしていました。 でも それを 兄が知ってしまって金田一さん!はい。 遺体は ご丁寧に焼かれてるのに 黒頭巾は 焼き忘れたと?まるで この遺体は 長彦さんだとわざと証拠を 残してるようなもんです。
越歴丸は 秘伝中の秘伝で その調合技術は喉から手が出るほど 欲しかったはずです。 当然 サンプク製薬は元祖の長彦さんとも 交渉したかったはずです。 しかし 長彦さんは 調合室に こもりきりだった。 長彦さんだって あの部屋から 逃げ出したかったはずです。 もし そないやったらサンプク製薬は せっかく連れ出した 長彦を殺害するはずがないやないか。 そうすることでしか元祖から逃げて 生き延びる方法はないと長彦さんは 考えたんでしょう。
盲点?黒焦げ遺体の正体は 別人だった!ああ… さすがは 先生 実に 大胆 かつ 奇抜な発想です。 それにですよもし 先生の推理が正しければサンプク製薬は 長彦さんと すぐにでも結託して越歴丸を 販売することになるでしょう。 さしずめ あなたは 探偵小説の読み過ぎで明智 小五郎にでも なったつもりなんでしょう。 研究の結果 同じ薬を 開発したとでも言えば越歴丸に似た 薬を販売しても 誰も疑いはしませんよ。 それに 今 浅原警部が血眼になって 行方不明者を探してます。
警部が わざわざ 僕のことを 訪ねてきたところをみるとさては 遺体の正体が 分かったんですね。 さっき 5日前の新聞を読んだら 高槻にキノコ狩りに行った中年男性が 行方不明になってますよね。 あの遺体は 正真正銘 元祖の長彦さんやったんや。 帝大の法医学教室が 解剖した結果な間違いなく 長彦さんやって 判断したんよ。 長彦氏を誘拐した。 そやけど 長彦氏が抵抗したため 殺害した。 いったい なぜ 犯人は 遺体を燃やしたのか。 遺体は 長彦さんだと 立証されましたよね。
大丈夫やろか?《二つの事件に 共通しているのはどちらも 被害者の顔が《創業者の遺言で警部 分かりました!ん?犯人は 喜一郎さんですよ!もちろん!そもそも 2年前から みんな だまされてたんですよ。 頭巾をかぶり 元祖で 越歴丸を作っていたのは長彦さんじゃなくて 喜一郎さんだったんです。 そこで 彼は サンプク製薬に 話を持ち掛けて薬の調合技術を教える代わりに喜一郎さんを 外に連れ出すよう命じたんです。 喜一郎さんが 長彦さんのことを 簡単に 許せるはずがありません。
おかげで 私も 色々と 寄り道をしてしまってサンプク製薬が 犯人だとかあるいは 喜一郎さんが犯人じゃないかとか。 なぜなら 今日は 事件に 関わった犯人全員に 集まってもらったからです。 越歴丸の調合方法を 知らないんじゃないですか?そんなこと あるわけないやろ。 越歴丸の調合技術を知る 跡取りだけが 店を継ぐ。 しかし 失踪から2年がたち ついに 在庫が切れ始めおそらく あなたが 見よう見まねで作った何の効能もない 越歴丸もどきと喜一郎さんの本物とを交ぜて 売ることにした。
おそらく 頭巾をかぶって 長彦さんに変装していたのは福助さんでしょう。 ですから 長彦さんは 私が 大阪に 到着する前にすでに 殺害されていたんです。 金田一という探偵が越歴丸の秘伝を 盗み出そうとしている。 彼らは 越歴丸の調合方法を 知りたかっただけで殺人犯に 仕立て上げられるとは 思ってもなかったでしょう。 長彦さんの遺体を燃やしたのも 実に 単純な理由でした。 喜一郎?喜一郎さんは 初恵さんと会うのを ちゅうちょしたんでしょう。
せやけど 天下の明智先生が何で わざわざ 金田一に 変装を?今回は 彼が ほとんど 解決したようなもんですから。 本家と元祖の 入れ替えトリックはあの場所を 舞台に見立てた 彼の意見を参考にしましたし喜一郎さんが 事件に絡んでいると 看破したのも 金田一君です。