以前 私が 私を 打ち負かすほどの 殿御ならいつにても 嫁ぐと 申したことを 覚えておいでで?では 今度の お相手とも 立ち合いを?お相手は 大久保 兵蔵と 申すようです。 大久保殿。 秋山先生。 不謹慎です!三冬殿の縁談のことならば 大治郎から 聞いております。 しかし 大治郎殿は 誰から このことを?三冬殿から じかに聞いたと。 そして 三冬さまも わざわざ 若先生に知らせた。 もし 三冬さまが負けたら若先生に 気持ちを残したまま 他の人の 嫁だよ。 若先生だって 泣く泣く 諦めることになるんだよ。
それで これ 何だろうと 思ったんですけどおとよの野郎 何にも 言わねえんでね。 先生。 うん?べらべらと 隣近所に 面白おかしく 言い触らしてんね。 何も 先生に お話しすることじゃないだろ。 てめえなんかに 飲ますものは水一滴 ありゃしねえや!チクショー!何だい! くそじじい!はい どうぞ。 それでも ここじゃなきゃ 嫌だっていう野郎が 多くてよ。 この野郎! おい。 宗哲先生んとこで。 客商売の身分も わきまえず 威張り返って 酒を売るとはおい。 この 大バカ野郎!とうとう 出たな 親父。 先生。
秋山先生。 大治郎は?朝から 牛堀道場へ 参られました。 九万之助のとこか。 秋山先生。 そういうときは 本所亀沢町の 小川 宗哲のところに 転がり込め。 お前は 己が ひどく 病んでいることを娘夫婦に 知られたくないんだろう。 見たところ お前は これまで 何事にも他人へ 弱みを見せずに 生きてきたようだ。 世の中に 甘く 見られるというのでお前は どうやら 若いころから 精いっぱい 肩肘を張り他人を たたきつけ蹴倒して 今日まで 生きてきたんじゃないのかな?いやぁ。
あの娘に 昔 あんたの父親 繁蔵さんには粂太郎さん 引き連れて 芝の 何とかっていう 道場に。 秋山先生でしょうか? ああ。 私 一刀流を学びます 大久保 兵蔵と申します。 うん?大久保 兵蔵殿。 先般 諸国遍歴から 戻りましたばかりの修行の者です。 知人より橋場の 秋山 大治郎殿の名を 耳にいたし一手 ご教授 願わしく まかり越しました。 先生。 うん?秋山先生。 煮貫は 火加減と 火から上げる加減が 難しい。 先生の好物の らくがん 頂いたよ。 秋山殿。
カワイイ。 なかなか カワイイ娘さんじゃねえか。 今日の先生は まるで 鬼です。 やあー!やあ! やあ! やあー!大久保 兵蔵にございます。 佐々木 三冬と申します。 三冬の縁談が決する この日小兵衛は どこにいても 落ち着かなかったのでございます弥七 食ってくれ。 本所横網町。 何か?下手な 物言いをすると そこの親父に 遠慮 会釈もなくどやしつけられることにもなる。 火加減 火加減。 肩肘を張り 他人を たたきつけあの店には 指一本 触れさせねえ。 まあ 今日 明日ということは ないだろうが。
そうなりますと ご縁談は?松平殿からは 勝負が つかぬからにはこの縁談は 白紙にとの 申し出があった。 秋山先生。 私が お会いしたいのは 秋山 大治郎先生ですが?私が 秋山 大治郎ですが?あのう。 お会いになられましたら 大久保 兵蔵がでは ごめん。 だがな 大久保 兵蔵殿とのことを 言ったらほんの少し。 わずかに 大久保 兵蔵殿には勝たせたくない思いが…。 秋山先生も。 鬼熊の親父の かかりつけは 宗哲先生だって いうから。