五郎蔵さんも そう申しましてその場で 卯三郎と気付いていれば 目を離しゃしなかったんだがって大層な悔しがりようで。 で 五郎蔵は どうしたい?卯三郎が せがれの岩五郎さんの所に立ち寄るかもしれない ということで。 幕府お米蔵の北にある 浅草三好町の河岸を俗に 御厩河岸という昔 その辺りに 幕府の うまやがあったことからこの呼び名がついたと いわれている御厩河岸の渡し場の近くに一膳飯屋を兼ねた 小さな居酒屋があったごちそうさん。
ですが 海老坂の一味と申せば配下の者ですら 一人として 捕らわれたことがございません。 とにかく 用心深え上に 仕事っぷりが際立っておりまして。 ああ卯三郎を追い掛けていた 柄の悪い連中ってのは?そうかい。 連中の一人は 権助と申しまして戸田 播磨守さま お屋敷の 中間だそうでございます。 ええ? 給金が 年に2両2分の中間がどうします?今度 あいつらに見つかったら卯三郎は 殺されてしまうかもしれませんぜ。 海老坂のお頭よ。
お前さんのことは卯三郎どんから 色々と聞いておりますよ。 目当ての店には 飯炊きの奉公人としてうちの者を潜り込ませてある。 困ったことと申しますと?配下の錠前外しが ぽっくり 逝っちまって…。 大店の 放蕩息子というのは どうでございましょう?へい。 あの店には 私も 目を付けていたんだが錠前が難しいんで 手を引いた。 こいつは 本物の鍵から 写したものでござんすか?いや 錠前から ろう型を取って そいつを図にしたものだ。 この世に 開けられねえ錠前は 一つもござんせん。
そんな べらぼうな利息が あるかい!うるせえ!ばくちの利息は べらぼうだって相場が決まってんだよ!ええい!それで 卯三郎は どうなった?結局 許してもらえず ひっくくられて 今も 中間部屋に。 長谷川さま どちらへ?卯三郎の様子を 確かめようと来たんだがあれが 権助か?へい。 おい! どけ!岩五郎さんは いらっしゃいますかい?今 留守にしてますけど うちの人に 何の用ですか?卯三郎さんの借金を 払ってもらいに来たんだよ。
お前 俺に 何か 隠し事しちゃいねえか?海老坂の与兵衛に 引き合わされまして…。 何かあるとは思っていたが岩五郎め すでに 敵の懐に 飛び込んでいようとは海老坂のお頭に つなぎを つけていただけねえでしょうか?岩五郎さん 急に どうしなすった?へい…。 条件とは?あっしは 8つのときに京橋の線香問屋に 丁稚奉公にやられたんですがねそこの主人が 因業な野郎でございまして初めて 給金がもらえるという その日に店の金を盗んだと 主人が 難癖をつけまして親父は 意趣返しに 線香問屋に押し入ろうと…。
卯三郎は どうしてる?はっ。 海老坂一味と つなぎをつけるような気配はまるで 見えませず おまさが申しますにはもはや おつとめからは 一切 身を引いているのではないかと。 お前が 伏木の卯三郎か。 よしとくれよ! 縁起でもない!卯三郎…。 他に 何か いる物はありますか?海老坂のお頭から 言付かった 10両だよ!海老坂のお頭から頂いた 納め金な薬代ぐらい 俺に頼れよ。 文字春を 1年も前から ここに住まわせてるのはむろん いざ おつとめというときのためでね。
海老坂の与兵衛一味が 柳屋へ押し入ったのはその夜のことである四半時 お待ちくだせえ。 どうしたい?海老坂のお頭が お縄になんなすった。 何だって 長谷川さまを裏切りやがった!海老坂の与兵衛ならではのことで ございます!うわー!今後は 一切 錠前を いじれねえようにいたします。 岩五郎が 錠前外しを しでかそうとしているのを盗っ人どもをとらまえるためには どんな手段も選ばねえ この俺が誰よりも一番… ヘヘッ 悪いやつかもしれねえよ。