広田のおかげで青柳はこの20年心血を注いできた自分の雑誌もちっぽけな出版社も全てなくすことになるんだからな。 これは木下太吉さん宅から盗まれた大正時代の福助人形です。 「『Birdland』青柳」下りのバスがあって幸いでした。 すいません今被害者が最後に生きた姿を目撃されたのは中居が食前酒を持っていった午後5時半ごろ。 何っ!?それはなんのリストですか?このリストは…えっ!?青柳さんは『バードランド』というジャズの専門誌を出す出版社を経営されてますね?出資打ち切りの件でしたら私は納得しています。
またですか…?我々がレストランに入ったのが上りの最終バスが出た5時45分ごろ。 レストランからここまで車で30分はかかります。 旅館に来る前にどうしてレストランでお食事されていたのでしょう?夜は同窓会でお友達と宴会だったそうですね。 ちなみに皆さんどんな楽器を?俺がトランペットで青柳がサックス宇野がベースで渡辺がドラムス。 ジェリー・マリガン・カルテットのような例外はありますが通常ジャズコンボのリズムセクションはベースドラムスそしてピアノですねぇ?結構詳しいじゃないの刑事さん。
で渡辺さんの方は何か?宇野が最初に注目された著作の『戦後のアメリカ大衆文化』っていう本もあれ学生時代に青柳と2人で書いてたものが元ネタになってるんですよ。 私の最初の著作の半分は青柳が書いたって話でしょ?違うというならあなたが証明してみたらどうですか?ところで黒木さんというのはどんな方でしょう?腹の中で上手に利己主義を育てている自由奔放な男…。 奥様はピアノの梨絵さんですね?梨絵は学生時代渡辺の彼女でね…。 嘘?えっ?黒木さんがいつ嘘をついたんです?我々が最初に青柳さんたちの部屋を訪ねた時です。
聞こえるはずのない鈴虫の鳴き声が青柳さんは展望台のパーキングではなく黒木さんの別荘にいたんです。 青柳さんがレストランでアリバイを作り黒木さんが広田さんを殺す…。 黒木さんが同窓会でアリバイを作り青柳さんが梨絵さんを殺す…。 どういうことです?黒木梨絵が生きているって…。 僕たちが到着する前黒木さんが別荘に着いた時も停電状態だったわけですね。 ワイン党の黒木さんは何度も地下室に下りてあの踏み板が危険なことを知っていたはずです。 やはり杉下さんは黒木さんの死は他殺だと?僕は可能性を考えているだけです。
青柳さん昨夜黒木さんがこの別荘に来たのはあなたが殺したはずの梨絵さんの死体を確かめるためですね?ああ…。 でも黒木さんが転落した時この人は別荘にいなかったんですよ?一体どうやって黒木さんを殺したんです?青柳さんはちょっとした仕掛けを施して黒木さんを心理的に誘導したんです。 その瞬間黒木さんは梨絵さんが息を吹き返したのだと思い込みました。 うわぁーっ!青柳さんは黒木さんを殺すための仕掛けのスイッチを黒木さん自身の手で入れさせたんです。