小説家の夏河郷士の事でしょうか?さすがだねぇ。 ♪~彼女は矢嶋小百合さん。 実は彼女の父親は夏河郷士が生前住んでいた屋敷の管理人をしていたそうな…。 20年前というと夏河郷士さんが自殺した頃という事でしょうか?はい。 もし仮にお父様が夏河郷士さんの死に関わっていたとしてどうしてそれを調べようと思われたのでしょう?これが父です。 出版社に問い合わせてみたのですが夏河郷士さんはワープロを使って執筆をしていたために直筆の原稿はどこにも残っていないそうです。
夏河郷士は自然主義文学の影響を強く受け自ら体験した事以外は書かないというかなり偏狭な作風で知られています。 夏河郷士の先祖が買い取りそれを相続した彼が亡くなるまでサロン慈朝庵と呼ばれていたようですね。 サロン慈朝庵?ええ夏河郷士には懐古趣味があったようで夜な夜なパーティーを開き文化人や財界人を集め交流を深めるための社交の場として使っていたためにサロンの一員でもあり夏河氏と親交のあった江花須磨子さんという女性が買い取り現在は彼女が代表を務める財団が管理をしているようです。
「突然玄関の開く音がした」「あの男がこの家に入ってくる」「ただそれだけで空気は張り詰め同時に濁るように思えてならない」編集者も締め出したこの屋敷に自由に出入り出来たのは管理人の矢嶋房夫ぐらいだったと考えるのが自然ですよね?それとも矢嶋房夫さん以外で例えばサロンのメンバーの中に夏河先生を恨むような方はいらっしゃいませんでした。 なんですの?矢嶋房夫さんの過去の犯罪記録です。 何を始めるおつもりですか?もし仮に何者かが夏河郷士さんを殺害したあと自殺に偽装したのだとすれば問題はどうやって遺体を引き上げたかです。
夏河郷士という作家は自らが見聞きした事を小説に書く事で鳴らした人物です。 傷害致死で服役した過去を隠し管理人の職を得た矢嶋さんの事を叱責しあるいはサロンのメンバーや家族に彼の罪を明かすと脅した。 それに耐えきれなくなった矢嶋房夫は夏河郷士を…。 でしたらこれ以上何を調べる事があるというんですか?矢嶋さんが過去に罪を犯した事や20年前夏河先生を手にかけたかもしれない事も小百合さんには関係ないはずでしょ。 やはりあなたは矢嶋房夫さんばかりではなく娘の小百合さんとも知己があったんですね。
矢嶋房夫にとって傷害致死で服役してた事は隠さなきゃいけない秘密じゃなかったって事ですよね。 「あの男なら毒を盛ることも私の体を突き落とすことも容易いはずだ」写真で見る限り夏河郷士さんは背が高く体格も立派でした。 それに対して「あの男」矢嶋房夫さんが体格で夏河さんに優るとは考えにくいんです。 ですが「あの男」は矢嶋房夫さんではなく夏河郷士だと仮定して読み返せば普通の感覚ならばチャイムを鳴らしますよ。