「ジョアンナは谷底へとロープを投げ込んだ」「その絶壁の中腹にはジョアンナのたった１人の息子ケビンがいたのだった」「ケビンはわらをもすがる思いでロープを握り締めた」「まさかその先に生き別れた母がいるとは気づきもせずに」♪～うっ…！「ジョアンナはロープに手応えを感じた」「力いっぱいロープを引いた」「手には激痛が走った」「しかしその痛みがジョアンナには嬉しかった」うっ…あ…。
こちらの鮫島悠里先生はその小説で新人文学賞を総ナメにしましてやかましい娘でお恥ずかしい。 長男で副社長を務めております直樹です。 あの…それでご本人は？はい？大滝社長さんは？お義父様はしゃべれるような状態じゃ…。 あのこちらは作家の鮫島悠里先生です。 あ…うっ！大丈夫ですか？大丈夫ですか？どなたか…どなたかいらっしゃらないでしょうか？大丈夫ですか？旦那様旦那様！旦那様！お薬飲みましょう。 あなた大丈夫ですか？お薬飲んでください。 日比谷のホテルセントリッチで被害者の目撃情報がありました。
またゴーストライターやってるの？あんたこそ何やってるの？こっちもあんまり大きな声じゃ言えないんだけど先週起きた殺人事件の被害者が事件の直前に大滝社長と会ってたんだよ。 社長が言ったとおり本当に殺された人がいたって事？「その後小さな和菓子屋に拾われ店の物置に１人で住み込んで和菓子作りを一から学んだ」大滝庵を創業した」私は人を殺した事があるんだ。
河島さんじゃなくて大滝社長のほうからだったのかも。 ん？大滝社長が河島さんの本を読んでたかどうかっていうのだけ調べてみようよ。 大滝社長の蔵書を見せて頂きたいなと思いまして。 待って！もう…なんなの？『和菓子通信』？あった！ん？ほら…「河島雪実」。 結局訴訟は取り下げられて大事には至らなかったんですがなんでも大滝庵の商品が盗作やないかと疑いをかけられたみたいで。 マジ！？天熟ドルチェいうたらあなた大滝庵の大ヒット商品ですよ。
ところで上地くんは大滝庵知ってる？あっ天熟ドルチェ！そうそう。 河島さんはその大滝庵の社長さんの事も取材してたみたいなんだけど上地くんなんか聞いてない？またまた…。 ライターの河島さんはそれをネタに大滝社長を強請ってたんじゃないかって。 だって天熟ドルチェは千鶴子さんが立ち上げたブランドだし大滝社長は一線から外れてたわけでしょ。 大滝社長は…河島さんが書いたコラムを読んで坂口フーズの坂口社長が自殺に追い込まれたという事を信義にもとる行為をしてしまったと思いそれで事情を聞こうと思って河島さんを病院に呼んだ。
ほらこっちのほうが自然でしょ？って事は大滝社長は殺人事件には関わってなかったって事？でも大滝社長言ってたよね。 余計なお世話！ったく何偉そうに！でもさ大滝社長が犯人じゃないとすると人を殺したって言ったのは誰を殺したって事だろう？多分坂口フーズの坂口社長の事じゃないかと思う。 大滝社長の事を一番よくご存じなのはやっぱり奥様だと思いますので生のお声を伺わないと。 ところで大滝社長さんは亡くなられる前日に定期検診を受けにいらっしゃったんですよね？ええ。
社長は悦子さんと千鶴子を烈火のごとく叱りつけてね。 あの…ところで先生は河島雪実さんというライターをご存じですか？河島って和菓子協会の広報に記事を書いてた？そうですそうです。 彼女は大滝庵の過去について調べるよう社長に依頼されたんじゃないでしょうか？過去？そんな気がするんです。 はいもしもし？「鮫島先生の携帯でしょうか？」はいあの…どちら様でしょうか？「大滝直樹の妻のやよいです」ああ…どうも。
大滝社長が人を殺したって言った事俺に黙ってただろ？アーコも同罪だからな？まあ今日は遅いから帰っていいよ。 なんだ！原稿出来てるじゃん！ねえこれさっさと提出してさこの仕事から手引こうね。 ね？これ以上お姉ちゃん首突っ込んだらねどんな目に遭うかわかったもんじゃないし！これプリントアウトしていい？ごめん…。 それ…ただ資料を写して主語を社長の一人称に変えただけなの。 あの時点でこの仕事のクライアントは奥様から大滝社長に変わったと思ってます。
司法解剖の結果が出たんですが…河島雪実と徳間医師とでは首に残された索条痕にはっきりと違いがありました。 最初の河島雪実は腕力で無理やり背後からねじ伏せられて殺害されています。 あなたと宇佐美さんが男女の関係である事は複数の関係者が証言しています。 あの…自宅や事務所以外でどこか心当たりはありませんか？「大滝庵の顧問弁護士をしている宇佐美祐貴さん４０歳が殺害されているのが昨日判明しました」「宇佐美さんと連絡が取れなくなった社員が不審に思い…」やっぱり彩乃の言ってたとおりだね。
まずライターの河島雪実さんがどうして殺されてしまったのか？弁護士の宇佐美さんは天熟ドルチェの盗作疑惑について大滝社長がライターの河島さんに調査を頼んだ事に気がつきました。 宇佐美さんは３年前から大滝庵の顧問弁護士をしていると聞きました。 でも千鶴子さんはそれよりももっと以前から宇佐美さんとお付き合いなさってたんですよね？警察の調べでは５年前天熟ドルチェが盗作で訴えられた時にそれが宇佐美さんです。 そんな事がもし公になってしまったら宇佐美さんは今後法曹界では生きていけなくなる。
社長が殺したと言ったのは…家政婦の沙代さんの息子さんです。 分娩後に昏睡状態になって数日間意識が戻りませんでした。 昏睡状態の奥様が目覚め死産だったという事実を知れば奥様は悲しみ苦しまれる事がわかっている。 そして大滝社長は徳間先生を通じてこの名前を知ったんじゃないでしょうか。 私から取材を受けた徳間先生は４０年前の過去が暴かれてしまうのではないかと危惧し奥様に自伝を中止するようにと伝えにいらっしゃいましたよね？でもそんな事したらあの子がどんなに傷つくか…！悦子さんに電話して迎えに来てもらうよ。