ええっ？何か？いえ 昨日 中西がそこで先生に会うと電話して出ていったので。 先生というのは大鷹公介先生の事ですね？はい。 ちなみにどのような話をされに？はい 主幹交代の事で。 主幹交代？普通は 私たちが有識者の先生方を集めて編集会議を行い 作業分担しながら進めていくんですがこの『千言万辞』は全て 大鷹先生一人の手で作られていて…。 大鷹先生を降ろして国島さん 主幹にしましょう。 出版を間近に控え私も 部長として主幹交代を認めざるを得なかったんです。
私は用例採集っていうんですけどこういう 先生が集めたまだ辞書にない言葉をデータに入れたりしています。 まあ 辞書作りに協力している言語学者は多いですが私たちの本業はやはり 論文を書く事なんです。 大鷹先生だけですやっていけるのは。 確か 大鷹先生は『千言万辞』に専念するために教授を辞められたとか。 昨夜の９時過ぎ 中西さんがここにかけた電話を取ったのは先生。
でも 国島さんは論文重視で辞書には そんなに…。 大鷹先生は世間の知名度は高いですが学会では あまり…。 辞書作りは 大変な割にはお金にならない。 電子辞書や 少子化のあおりでやめていく出版社も増えています。 『千言万辞』は『文礼堂国語辞典』のアンチで書かれてますから。 辞書というのは 偉い先生がまともな生活を捨てなきゃできない仕事なんですね。 そのような思いの あなたがなぜまた先生と一緒に辞書作りを？行きがかり上です。
あの晩 公園前を通った車のドライブレコーダーに映っていたそうです。 中西さんは 大鷹先生とうまくいってなかったそうですね。 今になって 中西は私の名前ではネームバリューがないから表紙なんて あり得ないと…。 「主幹という言葉に取り憑かれていたのはあなたのほうだったようですね」なぜわざわざ仕事場に立ち寄り佐知江さんに見られてしまうようなまねをしたのでしょう？じゃあ 国島さんは誰かをかばって…？ペーパーナイフがあったのはこの引き出しですね。
ああ… 国島 何しに来た？先生のペーパーナイフを持ち去り自分のものとすり替えた。 いいえ！国島さん！先生の… いえ先生と私の辞書を守るために私がやりました。 失踪した？大鷹先生は 国島さんのところ行ったんじゃないかと。 ２つある辞書のうち『文礼堂国語辞典』のほうはすでになくなる事が決まっていました。 病気に気づいている事を隠し都合良く先生を操ろうとしたんですよ。 ただし 『千言万辞』ではなく『文礼堂国語辞典』を。