江戸城の大番士であった日向半兵衛は隠居したばかりである欲を捨て 無用庵にこもり年寄りらしい年寄りになろうとしていたがいまだ盛んであったあったぞ!では 紙も買い求めておきます。 ご老中 お美代の方の行き先はまだ決まりませぬか?大奥で老中に匹敵するのが御年寄で将軍さえもが敬語を使っただが 定信は 大奥の経費を大幅に切り詰めたので二人の仲は険悪だったまた 姫君のお話ですか?我らの苦労も知らずいい気なものよ。
薄紅根湯だよ!ここか… 評判の薬屋というのは。 ちょっと! ちょっと…!ちょっと どいて!あの… 薄紅根湯まだあるのかい?あるとも! でも今日は 残り あと三十個だよ。 一つ 三百文だ!昨日二百文だったじゃないか!うちの薬は風邪にもはしかにも よく効くんだ。
あっ… 半兵衛様!久しいのう お順。 あの… 半兵衛様はどこかお悪いんですか?何… ピンピンしておる。 半兵衛様。 ほう… 大奥へか?はい! 半兵衛様に字を教えて頂いたおかげで召し抱えられたんですよ。 ありがとうございます!大奥に上がって花嫁修業をする事は 栄誉とされその後の結婚にも有利に働く事が多かったおかえり。 半兵衛様もおいでになってました。
拙者は留守居の桧垣精之進と申す。 で 今日は?あの時 役に立たなかった番士たちの稽古ぶりを一度 ご老中に見て参れと言われましてな。 聞けば ご老中が推薦した古強者が師範をされてるとの事。 旗本の最高位である将軍が出かけている時には江戸城の留守を預かるほど重要な役割であったやあっ!待て! 刀を合わせにいくな!斬りにいくんだ! 斬るんだ!最後まで手伝って頂けるとは思いませんでしたぞ。 確か小普請組の旗本ではなかったか?今や 江戸城の留守居です。
そなたらは利根川で奉公してもらえばよい。 何? 聞こえぬ!姫様を お迎えさせて頂きとうございます!どうしても 姫をお迎えしたいというのだな?はっ!今日こそ言うぞ。 引き受けぬと御普請をさせると言われてはなんとも…。 祝儀を派手に出し姫つきの女中や下男の切米も支払わなければならぬ…。 されど 利根川といえば大名殺しの川。 普請を命じられれば姫君どころではない莫大な金がかかります。 どうした?あの 藤崎様の部屋子がお倒れに…。 しかと手当てはしておるのか!?部屋子は皆 上様からお預かりした大切な体。
日向様 この事を長谷川様にお知らせしてよいですか?ご老中の耳に入ればきっと 対処されると思います。 はあっ!やあーっ!やあーっ!はあーっ!日向様!お待ちしておりました。 だが わしは どうしても奈津に戻ってきてもらいたいのだ。 諦めるも何も 奈津はおぬしの元を去ったのだろう?わしも忙しかったのだ。 いや… 実は 桧垣殿に再婚を申し入れられたのだ。 奈津の気持ちが一番大切です。 奈津 桧垣殿のところに戻るつもりはないのか?何をおっしゃってるんです!半兵衛様の馬鹿! 馬鹿 馬鹿…!お咲…。
大殿!相模屋さんから聞きましたよ。 お前こそ もう 傷はよいのか?大丈夫です。 近頃 何か ありませんでしたか?半兵衛様が気に病むような事が。 ああ… 勝谷め…!な… なんと…!おい 誰と誰に言った?えっ?いやいや…おせきさんと久庵先生とお咲さんと文蔵さん…。 寂しいのは 半兵衛様だけだと思っていたのですか?すまなかった。 半兵衛様…。 あれがなくなってから 大曽根様のご機嫌が悪くて悪くて…。 そちらは 大曽根様のお引き立てがあればこそでございます。
半兵衛様は 私に何も無理強いなされませんでした。 大曽根様。 藤崎様の部屋子がまた亡くなった件ですが…。 よいか?大曽根様も 大奥に上がられさらに美しくおなりに…。 大曽根様の美しさがわからぬとは上様も お気の毒な…。 毒!? ああ…!ああ… お順! お順…!「老中を襲わせたのは大曽根様です」ううっ…!半兵衛様!うまく書けました!調べたところ大奥で殺されたのは藤崎の部屋子ばかりだったようです。 藤崎の部屋子が上様の子を産んではまた ご老中が狙われるという事はないですかな?そこは抜かりなく。
それは ご勘弁!この薬を買い占めてうわっ… ああっ…!火付盗賊改方 長谷川平蔵である!お留守居や大奥のお偉方が黙っておられませんよ!この平蔵 勤めに命を懸けておる。