あの時落下傘で脱出した敵の搭乗員をあろうことか…。 宮部久蔵を知ってる特攻隊の生き残りが見つかった。 元海軍中尉谷川正夫。 ご存じなかったんですか？私は上海第十二航空隊で宮部と一緒だった。 宮部は非常に勇敢な恐れを知らない戦闘機乗りだった。 谷川さん谷川さん！宮部？宮部じゃないか。 防弾板が欲しい…そういうことか？どれだけ多くの搭乗員が亡くなったか。 米軍は搭乗員の命を大切にするんだな。 つまり米軍の搭乗員は墜とされても戦場に復帰できる。 そうやって失敗を教訓にしながら熟練の搭乗員を育てられるってことだ。
昭和１９年のマリアナ沖海戦で連合艦隊は二隻の空母など戦力の大半を失い敵のサイパン上陸を阻止できなかった。 米軍の次の標的はフィリピンのレイテ島であり連合艦隊はそれを阻止するため捷一号を敢行した。 機動部隊をおとりにして米機動部隊を引きつけその隙に大和武蔵など水上部隊がレイテ島に突入し敵の輸送船団を撃滅する作戦だ。 そんな時私は宮部と別れフィリピンのマバラカット基地に配属された。 マバラカットの特別攻撃については聞いていることと思う。 ここニコルスでも特別攻撃隊が編成されることとなった。
そこまでして祖父は…宮部久蔵は絶対に生きて帰るという自分の意志を貫いたということですか？そんなきれいごとじゃ済まない。 そそれなら…それならなぜ特攻に志願した！？特攻を命じられたらどこでもいい島に不時着しろ。 当時は発動機の不調で戻ってくる特攻機があった。 宮部久蔵さんのこと。 で？戦争末期にそこにいた元海軍中尉の武田貴則さん。 あぁ…宮部久蔵さんはそこで教官をやってたんだって。 武田さんの会社？あぁ武田さんって今東昭物産の会長さんなんだって。
なぜ！なぜそんな考え方ができるんだ？私は自爆テロリストの遺書も特攻隊員の遺書も読んだことがあるからです。 ばか者！その遺書が特攻隊員の本心だと思ってるのか？喜んで死ぬと書いてあるからといって本当に喜んで死んだと思ってるのか！もちろんそれは彼らのせいではなく愛国的思想に覆われたあの時代のせいでありそれを流した軍部のせいです。 そんななか宮部教官は私たちに合格点をくれない教官として有名でした。
その頃は我々も比島…つまりフィリピンから次々と特攻隊が出ていることを知っていました。 これは戦後聞いた話ですがある司令長官が出撃する特攻隊員たちを前に涙ながらに激励した後「何か質問はないか？」と聞いたそうです。 かわりになぜか宮部教官の話になったことを覚えています。 宮部教官は俺たちがうまくなるたびに苦しんでた。 宮部教官は特攻を拒否したのか。 その時私は零戦と宮部教官が重なって見えました。 特攻のための急降下訓練で機首の引き起こしに失敗して…。
宮部教官はそれから間もなく九州へ転属になりました。 直れ！宮部教官どうかご無事に。 君は鹿児島の鹿屋って知ってる？この人ね最近まである有名な暴力団組織の幹部だったんだ。 絶対条件って…あの人全然反省してないね。 反省？結局俺たちの名前使ってさ証言者釣ってさ。 その証言者捜し出してくれたの高山さんよ。 それだけ？えっ？結婚相手として条件がいいからなんじゃないの？何それ。 大手の新聞記者でまぁ時間は不規則だけどかなり高収入で社会的地位も高くて。
その臆病者の祖父がなぜ特攻に行ったのか鹿屋じゃない。 そのいろんな人が言うように宮部がただの臆病者なら俺も笑っていられた。 俺はラバウルで２０機以上撃墜した。 噂？宮部は１００機近くを撃墜している。 飛曹長の撃墜数はいくつですか？覚えていません。 俺はやつに模擬空戦を申し出た。 模擬空戦？お願いします。 お願いします！じゃあ結局模擬空戦はやらなかったんですね？気がつくと周囲には敵も味方もいなかった。 模擬空戦をしようという意思表示だ。