お前はな一旦 表へ飛び出すってぇと角兵衛獅子の食もたれじゃねえが帰りゃしねえ。 『どうだ たまには お湯屋へ行ってさっぱりとして寝たらどうだ?』とは思うんだ いつもね エヘヘ。 親父と奉公人がいるだけだからね。 親父と 話をしたって俺の膝の上へ手 載っけてね『もし 若旦那え~』なんてやつだ アハハハ。 手前が 中身を当ててご覧に入れましょうかな?『吉原へ行って花魁に会いたい』。 大旦那様のご勘気を蒙って蟄居閉門の身とやら。 「若旦那の身代わりを二階に置いといて若旦那が帰ってきたらそこで 入れ代わるという。
「ところが 若旦那の声色をよく遣う者がありましてなこれを 二階に 身代わりに置いておけばよろしゅうござろう?」。 「それは 駕篭抜けの方と違っていささか お高くなりましてな伝授料が5円となりますがよろしゅうござるかな?」。 座布団代わりに新聞紙を」。 「久しぶりたってね若旦那は ご謹慎ってぇ事は私も知ってたんですよ。 お宅の大旦那に嫌われてるから。 私も 若旦那に会いたいな~と思ってたの」。 「何を 若旦那 今更 本当に。 うまいなんてぇもんじゃない ね?大旦那さんが間違えたんだ」。
そこでもって 私が若旦那の声色を遣うてぇとこれがワンワンと うけたんだ。 ところが 隣座敷に来てたんだね 大旦那がいきなり唐紙を ガラリと 開けるてぇと『伜。 見るてぇと若旦那がいないでしょで 私がこういう形をしてた エヘヘ。 もし 見つかってごらんなさいよただでさえ 私ゃ大旦那に嫌われてんですよ ね?『何てぇ事をするんだ』ってんで胸ぐらなんか 掴まれてねまた お宅のお父っつぁんってなぁ腕っぷしが強いんだよ。 「早いったってね若旦那のためだったら命だって要らねえ」。
これですよ 若旦那。 ハア~ッ 立派な部屋だねどうも ええ?布団が敷いてありますがね絹布の二枚重ね豪気なもんだね どうも。 若旦那どんな本 読んでる? ええ?『学問のすすめ』?」。 「難しい本 読んでんだね若旦那。 これ 長火鉢 欅ですよ これね豪気なもんだね どうも。 若旦那どの辺まで 行ったかな?あの源公の車ってなぁ速いからね。 あんな者死んだって構やぁしないやね』『ウ~ン それもそうだなじゃあ 泊まっていこうか』言いかねないよ 若旦那はな。
「『大原女も今朝新玉の 裾長し』。 それから もう一つお前に 聞きてえんだがなあの~ 若宮町のおばさんが来た時に「ムロアジの干物じゃなかったのかい?」。 ムロアジの干物でございます。 「ばか野郎 干物を下駄箱へ しまう奴があるか」。 「あの~ なんでございます干物を入れる干物箱でございますな」。 「干物箱?そんな箱が 家にあったかな?お前 ひょっとして あれ鼠いらずに入れたんじゃねえのか?」。