その治三郎が二十歳になりました時に借金で 人手に渡った田地田畑をなんとか 受け返そうと江戸に出て 日本橋大伝馬町「いや~ありがてえこんでごぜえます」。 旦那様何か 御用でごぜえますか?」。 これはな お前が 一生懸命働いてくれた その ご褒美だ。 旦那様が 道中は物騒だから朝は ゆっくり 発って早く 泊まれと仰って下さったんだがおっ父と おっ母の顔が早く 見てえ一心で無理をしちまった。
治三郎は その火縄を クルクル クルクル振り回しながら 山を下り始めた。 後ろ姿を見送っておりました女房の お縫かくては 果てじと 戸を閉め元の座に引き返せば夫の捨丸は 鉄砲に 弾を込め火縄に 火を点じるとやおら 立ち上がろうとする気配。 俺ぁな あの奴に火縄 くれてやったなぁ慈悲でもなけりゃ 情けでもねえあんな者 山 下ろしてみろ「エエ~イッ! うるせえ」。 今 捨丸が火縄に 狙いをつけようと火縄が消えてしまいました。
さぁ お金が無くては国へ帰る事ができませんのでまた 江戸に引き返しまして佐野屋市右衛門方を訪ねるとびっくりしたのは主の市右衛門です。 「ええ?ア~ア〜ア〜 これ 泥棒野郎からもらってきやした」。 途中で 獣が出たらおっかねえからな旦那様の所へ持ってくれば薪割りぐらいには使えるかと思いましてなあ~ 引きずってきやした」。 この刀を ジッと 見ておりました佐野屋市右衛門まぁ 私に任せなさい」。 さぁ これから 本石町の田中屋卯兵衛という刀屋にこれを 研ぎに出させました。