「いや 違うのや 家に おったらな家のが その なんじゃがな女子衆 使て正月の用意をしてて『あんさん そこに居てなはると片づけものが ちょっとも出来へんさかい 表へお店へ出てておくんなはれ』てこない 言うさかい 店へ行たら番頭が 帳面 広げて チッチッチッチッこんな事 やってるよって『旦那さん そこに おられると気になりますさかいどうぞ 奥へ』 言うて奥 行たら 『店へ』店 行たら 『奥へ』 言うてとうとう 行く所 無うなってなこないして 寒空ウロウロ 歩いてますのや」。
「そこへ 幇間の一八っちゅう奴が 『まあ~ 旦那さんなんちゅう事を しなはんねん。 ここを どこやと思てなはんねん新町 大阪でも一流の お座敷でっせ。 この旦那さんは そういう遊びしたはんねんなっちゅうのをお前 空気を読んでやなそういう遊びでございますかちゅな事を 自分で 胆で 思て旦那さんの所から出た物でございましたら 私が頂きます。
旦那のほうは 本家のほうでこう 年始を祝いまして懐へ 手を入れますというと大阪の町を 南へ 南へ橋筋中筋 東へ行きますというとお正月の事でございますからいつにも増して 陽気なこと。
錆田の先生が家の お父っつぁんの林 松右衛門という名前を折り込んで歌を作ってくれはりまして句が載ってますのやわ」。 「えっ? そうか?『のどが鳴る早 死にかかる松右衛門』」。 「違いますがな『のどかなる』は『林にかかる松右衛門』ですがな『林にかかる』ですがな」。 「正月から 大きな声出すんやないがな もう」。 「やっぱり 棺巻きや~中から 死人が 顔 出しとる」。 「アハッ あの~ 村上の旦那さん来てはりますかいな?」。
これがな 京都に御影堂っちゅうのがあってなそこのな 渋谷藤右衛門ちゅうてな それを略したら『めいどの しぶとう』言うて皆で言うて」。 下で 皆 行列葬礼の行列して待っておりますんで」。 まぁ 芸者もな 付ける名前が「あ~ これがな 私がこのとこ かわいがってるなまだ はなたれ芸者やけどな国鶴ちゅうねん」。 誰が死んだんや?ヘエ~ッ? 国鶴姐さん?それやったら 見番からすぐに 知らせがあるけどな。 親父どんか?親父どん 昨晩風呂で会うたな。