お決まりの夫婦喧嘩の最中に吉原は 佐野槌の若い衆がやってまいりまして…。 嫌がる かみさんの着物を無理に 脱がせまして猫の百尋のような怪しげな帯を締めまして尻を 端折って吉原へ やってまいります。 達磨横丁の親方が見えましたよ」。 無沙汰は互いだけどねぇ親方 このところ 商売替えしたっていうじゃないか」。 『達磨横丁の左官の長兵衛の娘です』。 随分前さ お前さんに仕事をしてもらってる時におかみさんと一緒にお弁当を運んできてくれたあの かわいい子がこんな いい娘になって。
『あれが 長兵衛の仕事だ大したもんじゃないか』。 お仲間を感心させるようないい腕を持ちながら何だって 博打なんかにのめり込むんだい?何だって おかみさんとか娘さんを泣かすんだい?親方。 来年の大晦日まで待とうじゃないか。 そのかわり 親方大晦日を 一日でも過ぎたら私ぁ 鬼になるよ。 大丈夫だよ。 大晦日までなんて言わねえもっと早くお前を迎えにくるからよ。 私は大丈夫だからその お金で 博打などをしないでおくれね。 大門口を出まして見返り柳を背中に土手八丁をとぼとぼと行きます。
ええ?けがも へったくれも あるかよチキショー。 縞の着物に前掛け矢立てを差して ハハ~お店者だな?読めたぞ 女だろう? ええ?帰り道枕橋の所までまいりますと風体の良くない男が私に ド~ンと突き当たりましてそりゃ お前 それでもって…。 吉原の 佐野槌てぇ見世にな身を売って作ってくれた金なんだい。 「俺だって やりたかぁねえよコンチキショー。 お店へ帰ったらな店の隅に 大神宮様でも金比羅様でも 祭って『吉原 佐野槌の お久てぇ娘が悪い病に罹らねえように』ってちょっと 手合わせてやってくんないか。
旦那様。 うん?お前は どうしてそう 碁が好きなんだ?お前 今日 水戸様の お屋敷で御用人の小林様と碁を囲んだろ? うん?大変だ。 娘の え~ お久という娘さんが吉原の え〜 金槌… さい…あっ 佐野槌です。 佐野槌というお見世に 身を売ってこのような事をやってますけど私ぁ 吉原というような所はいや。 それから 旦那と番頭が しばらく話をしておりましたが明くる朝 早く番頭は出ていきまして昼前に 戻ってまいります。 「旦那様。 これから 旦那と文七が大勢の奉公人に見送られまして店を出ます。
「文七。 そして 角樽をお借りしてなついでに 『左官の長兵衛親方のお宅は?』と聞いてらっしゃい」。 「何度 言ったら 分かるんだコンチクショーめ。 だから 俺 その野郎に くれてやったって言ってるじゃねえか」。 家の嬶なんか蕎麦屋の箸を 折っペしょって中挿しに してるぐらいだから御門違 御門違」。 親方 この若者の顔に お見覚えはございませんでしょうか?」。 この男 手前どもの若い者で名前を文七と申します。